STORY

of

Joel Basumatari



食は私たちの文明のアイデンティティです。農業、食材、ルーツ、遺産など、私たち固有の慣習を守ることは、すべての世代にとって極めて重要な役割です。今こそ、その食文化を記録し、守り、伝統を継承していくことが必要です。

イギリスの有名ホテルで学び、働いた後、シェフのジョエルは故郷であるインド北東部・ ナガランドに戻り、ナガの食文化を広めるレストランを開くことを目標に掲げました。 現在、Saucy Joe’s Food Processing Unitを経営しています。スローフードとの出会いを通じて、シェフとしてだけでなく、起業家、コミュニティ・ファシリテーター、食文化の継承者として、様々な角度からコミュニティに向き合い、地域の若者たちに伴走している姿が浮かび上がってきます。


PROFILE

名前 : Joel Basumatari(ジョエル・バスマタリ)
コミュニティ/国 :  ナガランド/ インド
現在の居住地 :   ナガランド ディマプル
年齢:  38歳 (1983年生まれ)
取り組みや所属:  シェフ、スローフード「ナガランドの生物多様性と食文化を守る」コミュニティ 創設者


ナガランドとインド

インド北東部にあるナガランドは、ミャンマー、中国、ブータンとネパール、バングラデシュに隣接している州で、総人口の80%が先住民で構成され、16の大部族と55の小部族が存在している。インド全体には630以上の部族があると言われていますが、インド政府が正式に承認しているのは461部族に留まっています。(インド総人口に占める先住民の割合は約8%)。





生物多様性を守るスローフードコミュニティ

ナガランド州は人口の80%が先住民で、僕自身も3つの部族(カチャリ, セマ, アンガミ)に属しているのですが、食文化も非常に多様で多彩です。一つの食材をとっても、燻製を1日で済ませるところから、1週間かけるところまで様々です。


「Slow Food Community ナガランドの生物多様性を守るコミュニティ」は2018年の9月に立ち上がり、僕は農家や先住民コミュニティのファシリテーション役として活動しています。カタツムリのロゴには、様々な部族のショールの模様を織り込みました。


このコミュニティでは、政府の資金に依存しないような運営に取り組むため、様々なイベントを行っています。料理対決イベントでは、調理設備も現代のものではなく、調整の難しい昔ながらの薪火を使用したり、伝統的な皿を用意するなどの工夫をしたり、素材を全て地元で調達してフルコースディナーを振舞うことでファンドレイズするイベントなども開催しました。


他の国の料理にも挑戦しようと、車で6時間ほどの港町で魚を仕入れて、寿司職人と一緒開催したイベントでは多くの人も集まり、そこで集まった資金でナガランドのユースのトレーニングのプログラムを開催することなどが可能になりました。


ユーストレーニングプログラムでは「卵と地域内にある材料だけで素敵な朝食を作る方法」などを教えたりといろいろな調理方法などを教えています。 また、「スローフードユースネットワーク」の活動も盛んで、フードロスの問題を地域で考えていくきっかけとして、若者たちが、地域の八百屋の人たちに野菜を捨てないように説得をしてまわり「ディスコスープ※1」を開催したりもしています。

ナガランドには多くの大学があります。学生のほとんどが先住民であり、コミュニティについて何か貢献したいと思っているものの、どうしたらいいかわからないという人たちが多いのです。そこで大学と覚書を交わし連携を進めることで、若者たちは情報を得ることができ、現在は、各大学から10名ほどが参加してくるようにもなりました。インターカレッジで野菜料理のコンペをやると面白いのではないかとも思っています。

※1 ディスコスープ

ディスコスープは、形やキズなどの理由から廃棄されてしまう野菜や、家庭で使われないままになってしまっている食材を使って、参加者が一緒になってスープを作り、ディスコパーティーに見立てて、楽しんで食べることによって、食品ロスの問題を知るきっかけを作るというもの。



ゼロからつくるパーマカルチャーのコミュニティガーデン

コミュニティガーデンもゼロから作り上げました。山間部にあり、町からのアクセスも不便な場所で、歩道さえないジャングルのような場所だったのですが、地域の人たちの応援によって1ヶ月ほどかけて土づくりするところからはじめました。


この村では、通常は焼畑の技法が使われているのですが、大地を焼いてしまうと、二酸化炭素も排出してしまうし、土にも悪影響が出ると考え、地焼の方法は取らず、スローフードコミュニティのメンバーや地域の人たちとともに、ミミズコンポストなどを活用して少しずつ丁寧に畑になれるよう準備しました。また、単一作物を作るのではなく、パーマカルチャーの農法で多品目の野菜を育てています。土中に葉を埋め、その上に土を被せて野菜を栽培することで肥沃な土地を作ったり、虫に食われやすい葉野菜の隣でニンニクや玉ねぎを栽培することで、虫を避ける効果を狙っています。苗床やポットにバナナの葉を使うことで、栽培に伴うプラごみの削減などにも取り組んでいます。

ガーデンには作物の受粉のために9つの蜜蜂の巣箱を置いています。Stingless Bee(針なしの蜂)はとても珍しい品種でもあります。ガーデンの中心にはキッチンもあってみんなで料理をしたり、栽培された野菜を販売したり、ブッフェを提供する「Earth Market」なども開いています。

このガーデンに来る来訪者からは参加費用を徴収し村の人たちにもてなしてもらい、収入にもつなげています。コロナ禍でロックダウンがされたあと、一年半ほどこのガーデンには足を運べていないのですが、このようなコミュニティガーデンを、これからも作っていきたいと思っていますが、まずは一つのコミュニティに5〜6年を費やして深めたいと思っています。


未来の食べ物としての「昆虫食」

インドのシーロンで先住民テッラマードレが開催された2015年以降、昆虫食がスローフード運動全体、そして僕たちの大きなテーマにもなっています。僕たちのコミュニティでは、昆虫食の有用性や伝統を発信したり教育したりする活動をしています。もともと、先住民の世界では昆虫食は珍しいことではなく、貴重な栄養素として伝統的に食されてきました。先人たちの知恵に敬意をはらうとともに、その知識や文化を次世代に繋いでいくため、学び直し、共有することが大切だと思っています。


2050年までに飢餓の時代がくると言われていますが、昆虫食は未来の食べ物として、貴重なタンパク源になるとされています。昆虫食はとても重要だと僕は考えていて、多くの学者がこれについて研究しています。


ロンドンでも、ミルワームが飼育されていると言います。カイコはいわゆる「飼育」ができますが、バッタなどは季節性のもので飼育が難しいとされています。「Capenter’s worm」という昆虫はとても貴重で、1キロあたり10000ルピーほど(1.5万円)という高価なものもあります。



ナガランドの食文化と種の多様性を取り戻す

〜味の箱船とシードバンク


小さいながらも、ナガランドの食文化を保全継承していくための取り組みもしています。ナガランドにはユニークな食材がたくさんあり、その情報を記録し、保存していくことが急務です。

例えば、ミトゥンはナガランドを代表する動物で、その肉は儀式や祝いの席の料理としてとても重要な役割を持っています。半野生状態で飼われており、村から任命された世話人が群れを見守ります。ジャングルに住むミトゥンを呼ぶための角笛があり、世話人がそれを使うとミトゥンはそれに応えて音を出します。また、塩が大好物で、世話人が手に塩をつけると、それを舐めに来ます。




また、今、私たちの在来種の黒豆を「味の箱船」に登録しようとしています。この豆を使った料理ビデオを作り、農家に重要性を伝えて栽培してもらっているところです。



また、スローフード先住民ネットワークを通じて知り合ったミネソタ州の「The Sioux Chef」の先住民シェフ、ショーンの活動に触発されて以来、トウモロコシの多様性を取り戻すプロジェクトも始めているんです。ナガランドでは現在、工業用トウモロコシの交配種が主に栽培されていますが、在来種をリストアップして多様性を取り戻そうとしています。



自分たちの手で稼ぎ、

持続可能な循環を生み出すコミュニティへ

2013年に初めてスローフードに触れる前までは、僕は全く知識がなく、いつも自分のことばかり考えていました。ですが、スローフードとの出会いを経て、常にコミュニティ(共同体)のことを考えるようになり、大小の取り組みを行うようになりました。


そしてスローフードの考えに基づき、相互扶助の体制やネットワークを構築し、自分自身もレストランを閉店して、加工に専念しようとした矢先にパンデミックが起こりました。僕がつくる加工食品は、全て地域の農家から調達し、生産物に付加価値のあるサービスを提供しながら、生産者に持続的な収入をもたらすことに繋げていきたいと思っています。


また、計画中の新しい加工場では、作物を長期的に販売できるものとして加工することや、パッケージングの教育など、農家と生産者のための市場連携の構築を考えています。

コミュニティガーデンの目的は学びなどの交流の場です。アイデンティティを取り戻すための文化を学ぶ場であり、伝統的な農法を学ぶ場です。焼畑などの土地にとって悪影響な農法から、ミミズコンポストやコンパニオンプラントなどを導入して、より持続可能なガーデンにしていくだけでなく、SHG(セルフ・ヘルプ・グループ)へのキャパシティビルディング・トレーニングも行っていきます。

コミュニティでも、事業でも、「公的なものに依存する」という考えが横行し、自分たちの手で稼ぐということをしなさすぎています。コミュニティの運営にはお金が必要です。ですが公的なものに依存するのではなく、お金が循環するようなイベントを開催してファンドレイズをすることが大事です。難しいことはいつもありますが、僕は一応、ナガランドでは「知れた顔」にもなっているので、僕がいることで、”有名人に会っている気分”になることもあるようです。ちょっとバカっぽくもありますが、それも大事なことなのではと思っています。

ジョエルのプライドフード


私の自慢の食べ物は、なんといっても納豆(発酵大豆)です。ナガランド州には16の部族があり、非常に多様性に富んでいます。それぞれの部族に独自の食文化があり、食材ひとつとっても、部族によってさまざまな調理法があるのです。発酵大豆はナガランド州のどの部族でも作られていますが、その技法は異なり、発酵のしかたも部族によって様々です。臭いがダメな人も多いけれど、先祖代々続いている食材です。




ジョエルの人生年表

1983 ナガランドに生まれる

2005 - 2007 コルカタの国際ホテルマネジメント学校で学ぶ

2007 - 2010 ロンドン・テムスバレーでホテルマネジメントを学ぶ

2010 - 2012 ロンドン・ヒースローのクラウンプラザホテルにて勤務

2012 - 2017 「Smokey Joe’s Restaurant and Grill」を開店

2015 インドのシーロンで開かれた先住民テッラマードレに参加

2018 スローフード「ナガランドの生物多様性と食文化を守る」コミュニティを設立

2018 先住民の料理人同盟に参加

2019 インドのシーロンで開催された「North East Food Show Chef Wars」で優勝

2018 「Saucy Joe’s Food Processing Unit」をスタート

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