
STORY
of
Kung-lien XU
Nga’ay ho! 台湾のクンです。私の物語を共有できることを嬉しく思います。アミ族の若者として、私は家族と一緒に土地や伝統的な食文化を守るために、米作りから地域でのスローフードの普及までを行っています。私の話が、より多くの若者に参加を促すきっかけになれば幸いです。
台湾東部に位置し、豊かな自然に恵まれた花蓮にあるシキヒキにルーツを持ち、生まれ、現在は台北に住んでいるアミ族のKung。27歳の彼女が故郷の作物や文化を家族とともに、多くの人を巻き込みながらどんな挑戦を続けているのか。その挑戦を紹介します。
PROFILE
・名前:シュー・クン・リエン( Kung-lien XU )
・祖国名:アミ族 / 台湾(AMIS / TAIWAN)
・現在住んでいる場所:台北市/花蓮市
・年齢:27歳
・今の取り組み / 肩書き:Amis Ugoods 創始者、Slow Food International Contacter
・アミ族とは ・・・アミ族は、台湾原住民のなかで一番多い21万4737人(2020年8月の統計による)の人口規模を持ち、台湾の東部一帯、花蓮県・台東県・屏東県に多くのアミ族のコミュニティがあります。17世紀初頭に漢民族が中国大陸から台湾に移住し始める以前の大昔から、すでに台湾に住んでいた先住民の子孫のことを台湾原住民といい、台湾にはアミ族を含めて16の政府に認定されている民族と3の地方自治体に認定されている民族がいます。台湾社会は約2,234万人のうち原住民が約1,9%、それ以外の大多数は漢民族という構成になっています。台湾では2005年に「原住民族基本法」が公布・施行され、それによって「原住民委員会」という政府組織が設置され、原住民への支援策が行われています。
*世界にも共通することですが、政府に認定されていることが先住民としての要件ではなく、認定されていなくても独自の文化や歴史を持つ先住民が多くいることがあります。台湾でも、認定されていない民族がまだいる可能性があると言われています。
祖母から受け継いだ稲作を母と一緒に守り生業に
私は台北で生まれ育ちましたが、現在は自身のルーツがある花蓮にも拠点を持ち、祖母が守り続けてきた土地を引き継ぎ、農業を行っています。

私たちアミ族にとっては、キビ、キヌア、サトイモ、赤米、もち米がメインの作物でしたが、60年ほど前から花蓮の山側の地域では、稲作が主要な産業として多くの家庭の収入源になっていきました。稲作をメインとして、ここで生まれる食を「Amis Ugoods」と名付け、母親と一緒に運営し、販売しています。この地に暮らすアミ族の農家について多くの人に知ってもらい、ここに残る暮らしと食文化を守っていくことが大きな目的です。

世界中の人とつながる楽しさをくれた
スローフードとの出会い
少し遡ると、2019年~2020年までをイタリアにあるUNISG(食科学大学)で過ごしました。学校に通っている間にスローフードの文化を理解する機会がたくさんあり、その理念が私たちの先住民の生活文化にとても近いこともわかりました。それがきっかけでスローフードインターナショナルのインターンシップに応募したのです。
インターンシップをしている間、2019年に日本で行われた、先住民族テッラマードレ アジア・環太平洋 in アイヌモシリ(Indigenous Terra Madre Asia & Pan-Pacific: ITMAPP)の準備として、世界各地の先住民とコミュニケーションを取るなどして関わりました。私は、このイベントに参加する様々なスローフードコミュニティに連絡を取る役割を担いました。そのときに、スローフードの強いネットワークを実感しました。また実際にITMAPPに参加したことで、世界中の人々と、共有したり、議論したりする友人になれることを強く感じたのです。

ITMAPPに参加した後、花蓮にあるスローフードコミュニティと協力して、台湾で初めてとなるITMフォーラム(2019年12月)を開催することができました。これらの経験を通して私は、先住民の農業と食に関するフィールドリサーチを行った故郷である花蓮により軸足を置くことにしたのです。

*UNISG…Università degli Studi di Scienze Gastronomiche(略称: UNISG)は、イタリアピエモンテ州のブラの郊外にある、スローフードが設立した大学。食科学大学とも呼ばれる。
見えてきた故郷にある課題に
みんなでつながり解決していく
私が故郷に戻ったとき、3つの大きな壁にぶち当たりました。
ひとつめは、当たり前にそこにあった多くの植物や穀物の品種が徐々に失われていること。
つぎに、農家である私たちアミ族は、大企業に穀物を売ることしかできないため、収入を自分たちの力で安定させることができないということ。さらに、私たちが保存したいと思う文化的価値も思うように表現することができませんでした。最後は、若者の都市流出も大きな問題となっています。「きつい・暑い・儲からない」という理由で農家という生業は敬遠され、都市部への移住が加速してしまっているためです。これらの壁と向き合っていくために様々なプロジェクトを立ち上げることを決意しました。
2020年6月、Amis Ugoods(農場の正式名称)は、農場から正式に協働組合に移行し、アミ族の仲間たちにに参加してもらっています。ブランディングやコンサルティング、教育を行い、先住民の農家たちのエンパワメントを始める活動を続けています。2020年10月には、台北にUgoodsのフラッグシップショップをつくりました。ここでは、都市部の人々にアミ族の文化に触れる機会を提供しています。この店の目的は、より多くの都市の消費者が、先住民の食べ物や農家と直接つながることです。

民族の枠をこえて一緒に続ける挑戦
いま、台湾国内のスローフード運動のコンタクトポイントとして、スローフードの活動も活発に行える土壌ができています。花蓮市政府と協力しながら、アミ族をはじめとする先住民の方々が参加する花蓮スローフードコミュニティと様々なプロジェクトを行うこともできています。
花蓮のスローフードコミュニティはとても活発です。2020年に開催されたワールドカフェプログラムをきっかけに、たくさんの素晴らしい取り組みが始まっています。2020年12月には、花蓮で山菜センターが開設され、アミ族の山菜文化を普及させるための教育システムを構築。2021年3月には、スローフード花蓮のリーダーがアミ族の山菜コレクションを紹介する本をに出版しました。そして、2021年5月からは、このままでは絶滅してしまう食材を守っていくためにスローフードがこれまで15年以上行ってきている、食の世界遺産「味の箱船」プロジェクトを花蓮でも開始しています。
2019年に台湾で開催したITMフォーラムをきっかけに、多くの人にスローフードや私たち先住民の文化を知ってもらうことから始めました。Chef=料理人、Travel=観光、Farmers=農家という3つの分野に焦点を当て、先住民の方々と一緒に戦略を深く掘り下げてきたからこそ生まれた今があると思います。
現在、台湾で花蓮以外にも2つのスローフードコミュニティ(都市農業を推進するTianmuコミュニティと青年農業者の集まりであるTaoyuanコミュニティ)の発足をサポートし、スローフードのムーブメントも徐々に拡大させています。天母の地域コミュニティのためには、Amis Ugoodsのショップを会場として、分かち合いのセッションやワークショップ、植樹イベントなどを開催をサポートしています。
このように様々なプロジェクトによって、より多くの先住民や若者たち、そして行政の人々が、自分たちの文化を保存することや、スローフードの考え方に注目するようになってきました。

時には戦う強い意志をもちながら、協働していきたい
活動は順調にみえますが、まだまだ問題は多くあります。最も深刻な問題は、農業における水不足です。台湾は深刻な水不足に悩まされていて、米の栽培は大量の水を使用するためです。2つ目は、新型コロナウイルスの影響です。イベントや旅行を通じて消費者と農家を結びつけたくても、それが叶いません。最後は、若者の移住問題。様々な活動にに参加する若者の数がいつも足りません。誰もハードワークをしたがらないという理由も大きいでしょう。若者たちへは、映画を作ったり、ソーシャルネットワークを運営したりと継続してアプローチを続けています。
将来的には、コミュニティが協力しながら、若者が農業に参加するためのプラットフォームを作り、土着の食文化を守っていくことにつなげていきたいと考えています。
私たち先住民の農業や食文化の生物多様性は、中国のものとは全く異なります。今はまだ、伝統的な技法やレシピ、種が多く残っていますが、このままにしていては、これらは地球からなくなってしまいます。私たちの宝物として、私たちの手で守っていかなければいけないのです。
私たちは、自分たちの文化についてもっと意識する必要がありますし、そのために戦う努力も必要です。自分たちのことをあまり知らない人には、さまざまな方法でコミュニケーションをとることを続けなければいけません。そのためにも、ネットワークを作り、様々なボーダーをこえて一緒に仕事をして、アイデアや経験を共有していきたいと思います。
Kungのプライドフード
例えば、発酵した豚肉であるシラウ。これは、アミ族の人々が山菜と一緒に食べる伝統的な食べ物です。シラウの塩分はアミ族の大事な食文化である山菜の苦味とバランスが良いのです。また、スープの材料にすることもできます。
また、台湾の在来種のキビを使った伝統的なキビ酒もおすすめしたいです。調査によると、各部族にはたくさんの在来種のキビがあります。お祭りがあると、人々はキビ酒を作って祈りを捧げたり、分け合ったりするのです。


Kungの人生年表
1993 台北に生まれる
2013 2010年に亡くなっていた祖母の土地が花蓮にあることが判明
2014 母が花蓮に戻り、叔母夫婦と農業を始める。週末には花蓮に行き、オンライン販売の手伝い等を始める(当時大学2年生)
2017 イタリアの家具メーカーでインターンを経験
2018
イベント会社で働いていて、芸術や音楽、食などをテーマにするイベントの運営をしていた。台東のイベントを担当した時に、UNISGの存在を知る
2018 UNISGに入学
2019 スローフード・インターナショナルでインターンシップを経験
北海道で行われた先住民族テッラ・マードレアジア&パンパシフィックに参加
2020 台湾に戻り、Amis Ugoodsを立ち上げる
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